効率だけが正解とされる世界で
最短距離でゴールへ向かうことが、賢い生き方だとされています。 地図アプリを開けば、目的地までの最短ルートが青い線で示され、到着予想時刻まで分単位で教えてくれる。私たちはその通りに進むことに慣れすぎて、そこから外れることを「ロス」だと感じるようになりました。
日常の中で、ふと立ち止まる瞬間があります。 周りの人たちが迷いなく進んでいる大通りを横目に、自分だけが細い路地や、舗装されていない道を選んでいるような感覚。 それが自分の意思で選んだ道であっても、「あっちのほうが早かったんじゃないか」「この道は行き止まりなんじゃないか」という不安が、白い息とともに漏れ出してしまうことがあります。
誰かに決められたレールの上を走る安心感と、自分で選んだ道を行く心細さ。 冬の朝、冷たい空気が肌を刺すように、その孤独は静かに染み込んできます。
走り終わらないと分からないこと
違う道を選んでしまったという感覚
姫路城が淡く光る冬の夜明け前。 白い息を吐きながら走る一人のランナーが、ふと振り返り、こう呟きます。
「みんなと違う道、選んでもうてん。…でもな、それもアリやったって、あとで気づくねん」
この言葉には、後悔と肯定が入り混じっています。 「選んでもうてん」という関西弁の響きには、意図せずそうなってしまったような、あるいは抗えない引力に引かれたような、独特のニュアンスが含まれています。
私たちは社会の中で、それぞれの「役割」を演じています。 会社員としての役割、親としての役割、あるいは「常識的な大人」としての役割。 その役割期待に応えようとするとき、人は大通りを選びがちです。そこには多くの先人が残した足跡があり、安全が保障されているように見えるからです。
しかし、ふとした瞬間にその道から外れてしまうことがあります。 それは失敗かもしれませんし、好奇心かもしれません。 ただ一つ言えるのは、外れた瞬間に感じる風の冷たさと、視界の広がりは、大通りでは決して味わえないものだということです。
正解はどこにあるのか
後ろを走るくノ一が、笑いながら言葉を投げかけます。
「正解の道なんか、走り終わらんと分からへんし」
私たちは「正解」を先に知りたがります。 失敗したくない、傷つきたくない、無駄な時間を過ごしたくない。 その防衛本能が、未知のルートへの恐怖を生み出します。
けれど、人生における「正解」とは、あらかじめ用意されているものではなく、走り終えた後に振り返って初めて浮かび上がるものなのかもしれません。 その時は苦しくて、無意味に思えた遠回りが、後の自分を支える重要なピースになっていたことに気づく。 それは、渦中にいるときには決して見えない、時間の贈り物のようなものです。
遠回りの効用
マスクを外した忍者が言います。
「遠回りしたぶん、見えたもんもあったんちゃう?」
効率を優先すると、視界は狭くなります。 ゴールだけを見据えているとき、道端に咲く花や、冬の朝の匂い、あるいは並走してくれる誰かの表情には気づけません。
「遠回り」とは、世界との接地面を増やす行為とも言えます。 最短ルートでは出会えなかった人、知らなかった感情、想定外のトラブル。 それらすべてが、あなたの「関係性」の網目を豊かにしていきます。 一直線に進むだけでは得られない、その道を選んだ人だけの独自のテクスチャが、人生に深みを与えていくのです。
人と同じでなくていい
「人と同じ道が、あんたに合うとは限らんのよ」
花魁の言葉は、艶やかでありながら本質を突いています。 他人の成功法則が、自分に当てはまるとは限りません。 誰かにとっての「正解の道」が、自分にとっては息苦しいだけの道であることもあります。
自分に合う道とは、歩いていて呼吸がしやすい道のことかもしれません。 たとえそれが険しくても、遠回りでも、自分のリズムで息ができるなら、それはあなたにとっての「王道」なのです。
猫が「にゃー」と鳴くように、気まぐれであってもいい。 その時々の直感や感情に従ってハンドルを切ることも、長い目で見れば必要な蛇行運転なのかもしれません。
答え合わせは、まだ先でいい
今、もしあなたが自分の選択に不安を感じているとしても、無理に答えを出す必要はありません。 「これでよかったんだ」と言い聞かせる必要も、「間違っていた」と責める必要もありません。
ただ、白い息を吐きながら、その道を進んでいるという事実だけがあればいい。 足元の感触を確かめながら、今日という区間を淡々と進むこと。 その積み重ねの先にしか見えない景色が、必ず待っています。
遠回りは、あなただけの物語を作るための、必要な助走なのかもしれません。
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